万葉集では、挽歌は雑歌、相聞歌とならぶ三大部立のひとつである。挽歌の原義は、柩を挽くときにうたう歌の意であるが、万葉集では広く死を悼む歌をも取り込み、２１８首が挽歌に収められている。
相聞歌が人生の青春の歌とすれば、挽歌は人生の白秋の歌といえよう。輪廻の思想からすれば、死は来世への精進があるわけだが、死者への儀礼は、哀惜と忘却とが混沌としており、故人を偲び、また自らの運命を顧みる、純粋な気持ちが彷彿する機会でもある。挽歌はその情念から生まれた魂の歌といえる。
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磐代の 浜松が枝を 引き結び 後見むと 君が結べる 磐代の 家に在れば 妹が手巻かむ 草枕 豊国の 鏡の山の 岩戸立て |
有間皇子 柿本人麻呂 上宮皇子 手持女王 |
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鏡なす 我がみし君を 阿波の野の 蜻蛉野を ひとの隠れば 朝蒔きし もみじ葉の 過ぎにし子等と 携わり 別れても またも会うべく 思おえて 蘆の屋の うない女の おくつきを |
詠み人知らず 詠み人知らず 紀伊国 田邊福磨 高橋蟲麻呂 |
ここに、縁者の鎮魂を込めて詠じた挽歌を載せたい。（
英舟：挽歌によせて）
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厳かに 幽明隔て 遺影のみ |
| ＃１ |
問い語る 声聞こえるや 死せる君 秀才の 言葉とみれば 非情なる 老いの頬に 光る涙の 一筋を 通夜明けも いまだ聞こゆる 空耳に カンカンと 鐘に誘われ 粛々と 鐘の音に 和するがごとく 鳴く鳥の |
才子偲草 |
| ＃２ |
爆弾に 消えし商家を 悼みつつ かりそめの 焼き場となりし 川原に 賎機の 戦禍由来の 慰霊塔に 賎機の 山の背に建つ 観音に |
戦禍偲草 |
| ＃３ |
病にたおれ 企業戦士の お悔みの 仕事半ばに 召されしことの 悔しさに 男一人 仕事一途に 賭けたれば 身罷れば 時を留めて 偲ぶ草 |
企業導師偲草 |
| ＃４ |
烈日を 紫煙に身罷る 朋にして 思わずや 車社会の 無機質の 五十路行く 第二の人生 途上にて 散会の 後片付けの ひとこまに 独りして 庭の山百合 ともしくも |
夏蟲偲草 |
| ＃５ |
鳥辺山の 緑目に染む 梅雨の間に 化野に 紫煙ひとすじ 新霊の 静もれる 杜の影さえ 偲ばるゝ 大樹生う 茅野の里の 善雄寺 御前弔う 大和尚にや 奇しき縁 |
寿老偲草 |
| ＃６ |
子を悼む 翁の便りの もろもろに いずれにも 優しく清き 面影の 庭清む 紫煙上がれば 郭公の 縁者みな やさしさあまる 人にして 紫煙立つ 生家の墓地に 処得て 母の名を 墓碑に残して 逝く伯父の |
伯清偲草 |
| ＃７ |
心聖き ひとや及ばず ことわりの 節々に 偲ぶ思いを 吟ずれば 聖き夜も 彼岸の君の 偲び草 |
聖節偲草 |
| ＃８ |
安らげく 御霊はこなた 来光寺 説くなかれ 哀れを誘う 旅なるも |
緑石偲草 |
| ＃９ |
夢浅み 紫煙に咽ぶ 顔容の 海原の 奇しき仏に 召されては 殉職の 所縁の潟や 寺泊 |
夢浅偲草 |
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アルバムを 繰れば懐かし 榛名富士 渋川に 流れの合いて 吾妻川 尾瀬に行く 通り道たる 渋川の |
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| ＃１０ |
米寿伸ぶ 俳句作りの 幸生や さ庭にも 老鶯一声 遺し去る |
俳僕偲草 |
| ＃１１ |
卒寿越ゆや 一年坂に 立ちみれば |
月君偲草 |
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