会社人間の回想譜

　還暦は人生の鞍部。顧みるゆとりを持とう。

　三十六年間を同じ会社で勤め上げて、定年満期を迎える。それは、平均的なサラリーマンの、文字通りの一所懸命の半生のように思う。

　これからは、従前と異なった別の道を歩もうとしている、この鞍部の分かれ路に立って、一会社人間の回想をここに載せてみたい。（英舟：会社人間の回想譜）

人生は　勤むるにあり
一筋の　会社人間
誠実の　三十余年を
喜びは　共に娯しみ
悲しみも　身一つならず
恙無く　年季納めて
功なきの　恥じる思いは
老い人の　繰り言なれど
刮目し　之を視るべし
今よりは　己に生きて

一日を　
大夢に愧じず　勤むるにあり

	花椿を　土に還えりし　母に捧げて　　　想い新たに　ふるさと出ずる	出　卿
	真新し　背広の中の　蝸牛　　　壇上の声に　身震いしほど	入社式（昭和三十六年）
	議論して　合宿の夜は　更け行かん　　　酒の海原　いずくに泊まる今日君と　契りて添わん　此の岸の　　　茨の道の　果てはなしとも	合　宿結婚式（昭和三十八年）
	マージャンに　負けたることを　談じつつ　　　月の侘しき　団地道行く十年の　思いの内に　叶いしは　　　社宅を出でて　団地住む夢拘れば　一つのミスの　腹いせに　　　八つ当たりする　悪いいちにちひとのみな　知識を頼り　駆けるとも　　　性善説を　信じたきわれひとかどの　技術畑に　年季得て　　　記念と誇る　功なかりしも	マージャン勤続十年（昭和四十六年）拘　心性善説勤続二十年（昭和五十六年）
	新しき　事とて　思い煩わず　　　心若きは　フロンティアなる残したる　物とて　何もなかりしが　　　勧善懲悪　山高帽子此の岸に　佇みて　いま静心　　　おぼろおぼろの　月登るみゆ病にたおる　企業戦士の　お悔みの　　　言葉選べず　どうもどうも	ビデオづくり偲　草静　心哀　悼
	五十路来れば　積もる話しも　多からん　　　涙と笑いの　振り子のごとくに	邂　逅
	我ながら　三十年の　道程よ　　　今日を思えば　ありがたきこと歳知れど　バレンタインに　肖りて　　　夢多きころの　ときめき思う	勤続三十年（平成三年）バレンタインデー
	長年の　勤めのことは　さりながら　　　昼の休みの　囲碁の思い出	囲　碁
	月満ちて　雲居に懸かる　人世かな　　　自在を旨に　川下る舟	回　想

会社人間の回想譜　おわり

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