フランスの啓蒙思想家ボルテルは、「初めて美人を花に喩えた人は天才であるが、二度目に同じことを言った人間は馬鹿である。」と言っている。だが、問題は何の花に喩えるかで、その人の叡智が現れるように思う。
伊藤左千夫の「野菊の墓」の中で、民子を野菊に喩える件は、青春時代の胸に染みる思いであったが、還暦を過ぎた今でも、その思い出がほうふつと湧いてくるのを禁じ得ない。
ところで、万葉集には１５０種類に及ぶ草木が歌に採られているが、寄物陳思歌で花に託した歌が多くある。
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紫の 匂える妹を 憎くあらば 妹が家に 咲きたる花の 梅の花 向こう峰に 立てる桃の木 成らめやと 高円の 野辺の容花 面影に |
大海人皇子 藤原八束 詠み人知らず 大伴家持 |
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い行き逢いの 坂の峠に 咲きをいる 吾のみや かく恋いすらむ 杜若 我が里に 今咲く花の 女郎花 芝付きの 三浦崎なる ねっこ草 |
高橋蟲麻呂 詠み人知らず 詠み人知らず 詠み人知らず |
花に寄せたいくつかの私の歌をここに載せたい。（
英舟：寄花陳思の歌）
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秘めやかに 語らいてみん 言の葉の 若草の 萌える思いも 色たけむ ときめきて 白百合の花 美わしく 薊咲く 馬来田の里の 畦道は |
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里の家の 石蕗咲けば ともどもに 撫子を 好く古の 心根も 庭梅の 色香を好きて 手折れしが |
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浜菊や 磯辺の風の さわやかに 藤の木の ラジカルとみる 枝振りも 純朴を 心情にして 野に立てば 藤房の やさしく垂れる 樹下影 |
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花三枝 花瓶に挿せば 彩りの 学際の 庭に時めく 花ならん 藤の花の 樹下に美わし 朋の居て |
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図書室に 花の生涯 麗しく 訪ね来る ひとを迎える 窓辺には 宴席の 花一輪は さりげなく 語らえば 藤の花にも 喩うべく |
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