お土産考

　交通の不便であった昔、旅は難儀極まりないものであったろう。旅を終え、無事に家に戻ったその喜びを共有して、旅帰りの挨拶の中に、お土産は旅の話しに花を咲かせたと思う。
　万葉の時代、お土産にちなんだこんな歌が詠まれている。

＃

潮干なば　玉藻刈りつめ　家の妹が
　　　浜苟乞わば　何か示さむ

女郎花　秋萩折れれ　玉桙の
　　　道行き苞と　乞わむ子がため

家苞に　貝を拾うと　沖辺より
　　　寄せ来る波に　衣手濡れぬ

山部赤人
万葉集：３６０

石川老夫
万葉集：１５３４

詠み人知らず
万葉集：３７０９

　この時代のお土産は苞（づと）といい、海辺は貝殻、野辺は女郎花、萩、撫子などの花であったようだ。今日、お土産の主流をなす食べ物は、保存方法のことを考えれば、到底思いもよらない時代なのであった。また、こんな歌もあり、ほほえましい。

＃

家に行きて　何を語らむ　あしひきの
　　　山時鳥　一声も鳴け

久米継麻呂
万葉集：４２０３

　さて、いまを考えてみる。筆無精な古くからの友人たちから、無事を知らせる代わりに、お土産が届く。故郷の産物や他所に旅をしたという証に、その土地の名産・銘菓に託してということであろうか。　　その土地がまだ自分の行ったこともない街なら、なおさらにいろいろとその街の様子を思い描いてみて、うきうきした心地に一日中浸れる。自分が一緒に旅した気分になれば、それこそ二度の楽しみである。
　お土産のお返しには、和歌でと、洒落てみたい。（英舟：お土産考）

友からの　旅のお土産
居ながらに　旅する心
かげながら　共に楽しむ
この度は　気楽な旅人
送られし　包みの中身
家づとは　今にあらずや
山の幸　谷の清水に
晒されて　菜漬け香ばし
浜づとは　昔語りか
海の幸　波のしぶきに
銀鱗の　活けるそのまま
絵葉書の　ひとコマごとに
駅弁を　思い浮かべて
乗り継ぎし　懐かしき街
名のみ聞く　街の銘菓は
口の知る　味のまろやか
ふるさとに　佳きひとあれば
出郷し　古りにし今も
故郷の　旬を味わう
遥かなる　旅のことども

朋想う　
心尽くしの　旅のお土産

＃１	賎機の　山を想わん　かすかにも　　　安倍の香風　茶にあやかれば

＃２	白形の　茶圃に伝わる　真心は　　　富士を望める　安倍の川筋

＃３	ふるさとの　友も達者か　足久保の　　　新茶の香り　ほの夏便り

＃４	丸子路の　八十八夜の　茶の園生　　　遠き古里　近き芳香

＃５	故郷の　八十八夜は　茶の香り　　　友を想えば　吐月峰に遊ぶ

＃６	一服の　お茶の香りは　掛川の　　　これっきし処　こだわりの味

＃７	初物の　蜜柑の皮を　むきおれば　　　青春の日の　残り香淡き

＃８	いただきし　林檎に君の　元気みて　　　ふじ・王林は　信州の味

＃９	九重の　紅茶すすりて　若き日の　　　茶菓子の思い出　重ね合わせり

＃１０	笹の上の　魚焦がれる　夏さやか　　　味京樽の　舌づつみかな

＃１１	頂戴す　播磨の煎餅　頬張れば　　　震災如何にか　味に尋ねん

＃１２	健やかを　悦びとして　年越せば　　　鎌倉ハムを　食する楽しみ

＃１３	いただきし　佐賀の蜜柑を　食みながら　　　思い馳せたる　回り燈籠

＃１４	頂きし　大喜は北の　三味菜　　　ご飯の国に　居りし理

＃１５	お土産の　メロンの食べ時　気遣えば　　　包む手さばき　老い母に似て

＃１６	陸奥の国の　想いは菓子を　伴いて　　　口に淡雪　晒しよし飴

＃１７	未だ見ぬ　街にはあれど　石橋の　　　菓子頬張れば　仙台恋しも

＃１８	落雁に　加賀の香りの　漂いて　　　長生殿の　無事を言祝ぐ

＃１９	ふるさとの　便りを寄せる　佳人ありて　　　どの季節にも　旅する悦び

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