心象の栞

　

　普段テレビで何気なく見ているなかで、はっとして心を打つものがある。それがドラマの一シーンであれば、演ずる役者の芸のうまさにもよる訳ではあるが、その人の生きざまをみる思いがある。
　特に、ドキュメンタリーや伝記物では、心を熱くするのは、当人の為し得た成果を予め知っているが故に、ことさらにそのプロセスに関心が高まり、感動するためだと思う。

　これまでに経験し、感動した心象を歌に託してここに残し、人生の糧にしたい。（英舟：心象の栞）

　
　

美しく　生きたる人は
みずからに　道を拓きて
天性の　仕事を恃み
競わずも　労は厭わず
人生の　一里塚建つ
思いやる　ゆとりを持ちて
他人様を　生かすに勤め
憂いなく　命の限りは
老いたりて　耳に従う
一葉の　来し方栞り
それぞれの　胸に飾りぬ
俚諺結ぶ　人生訓に

思い入る　
仕事に汗して　生きたる人は

 　

　

　

＃１

　

震災に　備えあればと　木鐸の
　　　百年後の　知己を求むか

今村明垣

　

＃２

　

愚直ひとり　今に残れば　一日が
　　　また長くなる　キネマ語り部

笠　智衆

　

　

＃３

　

憧れし　海に見初めて　磯蟹の
　　　生への畏敬　身振るうほどに

農薬の　効能書や　いかにせん
　　　奢りの果ての　沈黙の春

レクチュル　カーソン

　

＃４

　

茅屋に　読書三昧　高士あれば
　　　東雲篩雪の　一幅の景

浦上玉堂

　

＃５

　

影の内に　自然の姿　見つめれば
　　　型に納める　時の重なり

彫像に　風の形が　見えますか
　　　髪のがざしに　スカーフの端

峰田義郎

　

＃６

　

希典の　内に秘めたる　やさしさは
　　　母を背に負う　静寂の声

乃木希典

　

＃７

　

信ずれば　サンタは心に　おわします
　　　祈念の後の　愛と平和と

バージニア　オハロン

　

＃８

　

縁によりて　自然の世界　極めれば
　　　久遠を描く　南方曼荼羅

身一つ　修めんとして　如何せん
　　　色心不二に　思い入れしが

南方熊楠

　

＃９

　

ガルトマンの　遺作を偲ぶ　ムソルグの
　　　展覧会の絵に　園の語り部

生ける時は　ビドロのごとき　天才の
　　　第四楽章　葬送の情

ムソルグスキー

　

＃１０

　

拙なかる　母の手紙に　涙するも
　　　古里無きや　遠き落日

野口英世

　

＃１１

　

役者たる　東野が演ずる　黄門の
　　　この紋どころ　目に入りて強し

庶民たる　役に徹する　心意気
　　　キューポラのある　町に居る人

東野英治郎

　

＃１２

　

荒ぶれる　戦地慰問の　歌心
　　　紅の唇　白の盛装

シャンソンに　処を得たる　生きざまに
　　　聞かせてよ　愛の言葉を

淡谷のり子

　

＃１３

　

清純を　誰に語らん　絹代命
　　　伊豆の踊り子　永久の夢路に

見えざれば　盲人をして　役に問う
　　　田中絹代の　女優一代

田中絹代

　

＃１４

　

薄幸な　人生たりとは　思わざる
　　　一筆託す　書家の借り名も

日中の　架け橋たらん　八十路まで
　　　時の流れを　見つめ続けて

愛新覚羅薄傑

　

＃１５

　

父親の　影を引きたる　筆致あり
　　　ホームドラマの　幕の内外

向田邦子

　

＃１６

　

眩しくも　芸一筋の　青春や
　　　双葉なしたる　岸壁の母

二葉百合子

　

＃１７

　

厳冬の　富士に挑みし　人ありき
　　　気象観測　草創の勇

野中至

　

＃１８

　

逢って知り　愛しそして　別れ行く
　　　悲しくもある　人物語

コールリッジ

　

＃１９

　

宴会の　終わりのように　飲み過ぎず
　　　立ち去る心　人生の道

アリストテレス

　

＃２０

　

人生に　あろう限りは　大ならず
　　　小にもあらず　曲がりなきもの

トルストイ

　

＃２１

　

神まさに　悪魔と対峙し　戦わん
　　　人の心を　戦場にして

ドフトエフスキー

　

＃２２

　

この世をば　感じる人には　悲劇なり
　　　考える人には　喜劇なるかも

ウォールボール

　

　

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