滝の前に立つと、自ずから身が引き締まる。ごうごうと流れ落ちる滝の音の中で、静寂を感じさせる、この心奥は何であろうか。信仰心から滝に打たれて行をする修験者や行者でなくとも、神仏に手を合わせる心地が自然と湧いてくる。これは、人間の煩悩の渦、すなわち暴流（ばる）を雄大な自然の力、瀑流（滝）に肖って精進したいという、無意識の内に潜む古代仏教の精神から生まれたものであろうか。
さて、万葉集にみる滝の歌は、次のようである。
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み吉野の 滝の白波 知らねども 神からか 見が欲しからむ み吉野の 泊瀬女の 造る湯布花 み吉野の 人皆の 命も我も み吉野の |
土里宣令 笠金村 笠金村 笠金村 |
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吉野川 川波高み 滝の裏を 大滝を 過ぎて夏身に 近づきて 蛙鳴く 吉野の川の 滝の上の |
元仁 兵部川原 詠み人知らず |
万葉集の歌の中では、滝といえば吉野川のそれに限られている。これは滝が人里離れた辺鄙な場所にあり、古くは特別のひと意外は滅多にお目にかかれなかったためで、吉野川の滝は、当時唯一の滝見の処であったと思われる。
現在は、交通の便がよく、滝そのものが信仰の対象というより、観光地の目玉の景物となっている。これまでに見てきた滝の歌をここに載せてみたい。（
| ＃１ |
霧降の滝 滝の音は 谷の底より 木霊して |
分岐瀑：日光市 |
| ＃２ |
寂光滝 滝に打たる 弘法大師の 徳を得て |
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| ＃３ |
裏見の滝 あれうれし 飛沫に濡れて 地蔵さん |
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| ＃４ |
方等滝 男の山の 大薙ぎの跡 痛ましや |
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| ＃５ |
華厳の滝 集塊岩の 袖に打ち振る 滝の音 |
直瀑：日光市 |
| ＃６ |
竜頭滝 枯れ枝に 氷柱作り 流れ行く |
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| ＃７ |
湯滝 湯の湖より 溢れるばかりの 落し水 |
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| ＃８ |
吹割の滝 自然とや 時の流れの 幾許か |
渓流瀑：利根村 |
| ＃９ |
赤川の滝 若葉茂る 木々の狭間に 白帯を |
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| ＃１０ |
滑川大滝 ななかまどの 赤き風吹き しぶき散る |
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| ＃１１ |
火焔滝 落ち葉敷く けものみちをば 分け入れば |
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| ＃１２ |
大湯滝 河原毛の 地獄を越えて 人心地 |
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| ＃１３ |
酒水の滝 紫の 式部の君に 会いし折り |
段瀑布：山北町 |
| ＃１４ |
白糸滝 富士山の 伏流水は 千条の |
潜流瀑：富士宮市 |
| ＃１５ |
音止ノ滝 滝の音の 絶えたることは なかりしが |
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| ＃１６ |
那智の滝 常緑の 林間に見る 那智の滝 |
直瀑：那智勝浦町 |
| ＃１７ |
称名滝 四段の 岩棚重ねて 落ちる水 |
段瀑：中新川郡立山 |
| ＃１８ |
浄蓮ノ滝 願わくば 女郎蜘蛛の 迷いなく |
直瀑：天城湯ヶ島町 |
| ＃１９ |
真名井の滝 水玉の 連なるごとき 滝暖簾 |
潜流瀑：高千穂町 |
| ＃２０ |
花交の滝 耳澄まし 小滝の音を 尋ねれば |
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| ＃２１ |
払沢の滝 僧の手の 払子に似たり 水飛沫 |
段瀑：檜原村 |
| ＃２２ |
天狗滝 沢伝いに あえいで登る 天狗滝や |
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| ＃２３ |
仙ぜんの滝 木漏れ日に 晒となりて 落つる水 |
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| ＃２４ |
連珠の滝 一筋に 連なり落ちる 滝水の |
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| ＃２５ |
留春の滝 はしばみの 葉を透けてみる 谷めぐり |
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| ＃２６ |
竜化の滝 倒木の 谷に跨る そのままに |
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| ＃２７ |
風挙の滝 とうとうと 魔神の口より 吐く水の |
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| ＃２８ |
袋田ノ滝 夏惜しむ 蝉の声さえ 掻き消して |
段瀑：大子町 |
| ＃２９ |
不動の滝 もみじ葉の 色付く前の 木暗がり |
：湯河原 |
| ＃３０ |
粟又の滝 床滑めの 粟又の滝 哀れなり |
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| ＃３１ |
地蔵滝 水飛沫の 音連なれば 心地よき |
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| ＃３２ |
幻の滝 岩陰に 仏の見えて ありがたき |
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| ＃３３ |
生命の滝 穏やかに 流れ下れる 水の精 |
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