蜻蛉と蝶は一番身近な昆虫であるが、近年、その時季になっても見かけることが少なくなったように思う。これは蜻蛉や蝶に住みよい里山の環境が壊れて、その生息域が極端に狭められたためであろう。
蜻蛉や蝶が群棲している野山で野遊びに興じたであろう万葉人に思いを馳せれば、感慨深いものがあるが、万葉集では、蜻蛉と蝶を取り上げた歌がなく、その詞書きの中でのみ認められるだけである。その昔、蜻蛉は盆の精霊として、また、蝶は死者の精霊として特別に崇められていたためと思われる。
さて、ここでは、俳諧の叙情の流れに掉さして、蜻蛉と蝶にまつわる歌を載せたい。（
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蜻蛉の 取り付きかねし 草の上 とんぼつり 今日はどこまで いったやら |
芭 蕉 千代女 |
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吾亦紅の 穂先に揺れる あかとんぼ 柿の実の ひとつ残りて さびしきに 通い慣れし 葵文庫の 道すがら 新川も 暗渠となれば 是非もなき おにやんまを 見たということ 告げし折り |
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台風の 忘れ形見は 水溜まり 弱りきて 羽を垂れたる 銀蝶に 畦駆ける 子に追われたる シオカラは 夕凪の 安倍の川原の 群れトンボ 夕焼けに とんぼとんぼと はしゃぐ子や |
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千年の 時を越えにし 大賀ハス 梅林の 小枝の先の 赤とんぼ 便りあれば 麦わら帽子が 野を駆ける 掛川に 任地と聞けば 桶ケ谷の 水面とぶ 桶ケ谷トンボよ ふるさとの |
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蘭の香や 蝶の翅に 薫物す 蝶の飛ぶばかりの 野中の 日影哉 白茄子に 羽もぐ蝶の 形見哉 胡蝶にも ならで秋経る 菜虫哉 蝶の羽の いくたび越ゆる 堀の屋根 蝶もきて 酢を吸る菊の 鱠哉 |
芭 蕉 |
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うつつなき つまみごころの 胡蝶哉 釣り鐘に とまりて眠る 胡蝶哉 猫の子を くんずほぐれつ 胡蝶哉 大原や 蝶の出て舞う 朧月 初蝶の いきおい猛に 見ゆる哉 |
蕪 村
基 角 丈 草 一 茶 |
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成東の 湿原美人 花菖蒲 夏草の 茂れる野原 分け入れば 梅林の 下草の花に 蝶をみる |
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芝草に ひとり立ち居の ねじり花 夏の日の けだるさばかり 風に揺れ 雨を乞う 残暑見舞いや ノウゼンに 殺すには 及ばずとわれ 言い訳す |
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