筑波山の今様かがい

　筑波山は、常陸国風土記にもみえるように、昔より、東の富士山、西の筑波山と対比して称されて、関東平野の直中に聳え、男体山と女体山からなる二神山で、祖霊のいます御山として、国見をしまた、かがいをしに、坂東諸国の老若男女が集い、大いに賑わったことで知られている。
　万葉の時代、高橋蟲麻呂は、旅の慰みに筑波山に登山をして、次のように詠んでいる。

＃

筑波嶺の　裾廻の田居に　秋田刈る
　　　妹がり遣らむ　黄葉手折らな

高橋蟲麻呂
万葉集：１７５８

　また、筑波山のかがいについて、蟲麻呂は次のように詠んでいる。

＃

男神に　雲立ち登り　時雨降り
　　　濡れ通るとも　我帰らめや

高橋蟲麻呂
万葉集：１７６０

　今日でも、筑波山は日本百名山のひとつであり、その人気は高く、人々の出逢いの場として、人口に膾炙されている。
　筑波山へは、麓からケーブルカーが山頂近くの御幸ガ原まで通じて、気楽にいける。御幸ガ原は男体山と女体山の中間に位置する鞍部で、見晴らしもよく、かがいの会処として、まさに打って付けである。
　カップルをはじめ、サークルの小集団や家族連れで、それぞれの団欒がみられ、今風のかがいは、こんなものをいうのであろうと感じた。
　ここでは、筑波山へのドライブ行を歌に詠んでみた。（英舟：筑波山の今様かがい）

双頭の　筑波嶺に来て
座を結び　宴を開けば
神います　御原あやかり
秘め事も　清められたる
春の日の　片歌かがう
男歌は　よばうばかりに

菜の花を
飾りてやみん　馬来田の里

厭うべき　事もなければ
その年の　柿実る頃
秋の日の　歌垣に舞う
女歌　よしや片歌

筑波嶺の
空行く雁は　宿り求めて

種播きの　期待の内に
豊穣の　喜びを得る

妻篭もる　
尾上美わし　筑波嶺に来て

＃１	男の山は　靄に霞みて　魅せられて　　　夏の休みの　子ら勇み行く
＃２	女の山は　登りやすきと　聞きやれど　　　雨後の滑り路　もたもたと行く
＃３	鬼ヤンマの　颯爽として　山路飛ぶ　　　筑波の盛夏　歌垣の空
＃４	女の山の　頂にきて　寛げば　　　岩場を恋いて　アゲハ蝶舞う

＃５	筑波嶺の　ここに立ちみる　歌枕　　　霧晴れ渡れ　悠久の時
＃６	筑波嶺に　白百合愛でる　万葉人も　　　今見るかぎり　絶滅の嘆
＃７	筑波には　名に負う香具師の　姿無く　　　ガマの油の　今昔思う
＃８	桜木の　午睡の邪魔は　いかばかり　　　ミンミン蝉の　声ひとしきり

＃９	昼食に　うまき鰻重　待ち合うは　　　水郷の名に　相応しきかも

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