詩吟で漢詩の朗詠を聞くのは、実に気持ちがいい。たとえ素人でも、それを堪能できるのは、詩吟が日本人の感性に合致した歌だからと云えよう。
漢詩の訓読は、本来の漢言語で詩を詠ずるのとは趣が異なるとは思うが、西洋の翻訳詩とは異質なものであり、そこにすばらしい感情移入ができる。
漢詩の詩情を、本歌取りの手法で和歌にできれば、なおさらに日本人の心を掴むのではないかと考えたとき、平安の歌人として活躍した、
大江千里のもっとも有名な歌は、白氏文集の一詩文「燕子楼中霧月夜 秋来只一人為長」から採った句題和歌である。
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月みれば 千々にものこそ 悲しけれ |
大江千里 句題和歌集 |
この歌には個性を感じるし、元歌の漢詩との感性の違いが十分に分かり、本歌取りと言えども、そこに創造性があるように思う。
本歌取りという発想は、「詩のことば」の共有を教養として、別の詩情を創造することにあると思う。
その心は、元歌のその「ことば」に異常なまでの愛着を感ずることであり、したがって本歌取りに詠まれた歌は、その心を覗き見る変態性は認められるが、歌の楽しみは増すことがあっても、その歌の本質を損なうものではないと思う。
それは、俳句における「季語」に準ずるものと発想すれば和歌における本歌取りの意義と創造性が公認されるように考える。
その意味から、敢えて私の句題習作をここに載せてみたい。（
英舟：句題習作）
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そのはじめ 漢詩のありて 詩心は |
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| ＃０１ |
少年易労学難成 一寸光陰不可軽 覚めざるは 春の夢かと 思うまに |
朱 き 英 舟 |
| ＃０２ |
孤鞍衝雨叩茅茨 少女為贈花一枝 蓑を借る 孤鞍の雨の 山吹は |
大槻盤渓 英 舟 |
| ＃０３ |
庭上一寒梅 笑侵風雪開 寒梅の 風を侵して 匂うれば |
新島譲 英 舟 |
| ＃０４ |
我愛山中月 ………・ 心すれば 疎林の月や 長しえに |
真山民 英 舟 |
| ＃０５ |
床前見月光 疑是地上雪 床前の 月の光は 地に降りて |
李 白 英 舟 |
| ＃０６ |
春有百花秋有月 夏有冷風冬有雪 四季ありて そのあるままに 生きたれば |
無門関 英 舟 |
| ＃０７ |
春夜高楼花月 ……・ 満ち足りて 盃にこぼるる 白玉の |
本宮三香 英 舟 |
| ＃０８ |
古陵松柏吼天風 山寺尋春春寂寥 吉野山 春尋ねれば 老僧の |
藤井竹外 英 舟 |
| ＃０９ |
夕陽帰鳥投源麓 煙火行人望遠邸
帰雁さても 煙り棚引く 竹叢に |
王義之
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