大江千里余話

　大江千里（おおえのちさと）は、平安前期の歌人、大江家は菅原家と並ぶ学問の家柄であり、彼自身、大学・学生（がくしょう）の出身であったが、詩人としてはその評価がいまいちで、不遇な官途に甘んじていたようである。
　しかし、歌人としては優れており、宇多天皇から古今の類聚を求められたのに応じて、句題和歌を献上した。
　この和漢対照様式は、きわめて斬新なものであったが、題詠歌としては、世人からあまり評価されていない。この句題和歌（大江千里集：８９４年）のほとんどは、白楽天（白居易）の詩から採った摘句である。

　ところで、私の、大江千里との出合いは、偶然のことであった。
　印幡沼の突端の南懐にある、佐倉草ぶえの丘（学童農園）のちかくに、森鴎外ゆかりの湖畔荘（いまはその建物はなく、跡地に詩碑が残されているのみ）があり、そこに立ち寄ったおり、そこから沼に向って野鳥の森がつづき、印幡沼が見晴らせる小高い処にでる。
　そこで偶然にも大江千里の歌碑に巡り合ったのである。

　大江千里の歌碑は、こんな処にと思えるほど、ひっそりと建っていた。場所柄、森鴎外とは、何らかの縁りがあったと想像されるが、今では、土地の人もその歌碑の存在すら忘れられていて、残念なことである。

　千里の歌碑には、次の歌が彫られている。

大江千里余話　おわり