岡山・倉敷　旅の栞

ふたり行く　グルメ旅行に　あらざれば
　　　新幹線にて　おにぎり食うや

岡山に　程なき頃は　トンネルの
　　　幾つか潜り　田舎町出づ

噴水の　桃やあつぱれ　岡山の
　　　駅前にそれ　桃太郎居り

入り口に　飾り置かるる　懸崖の
　　　菊や霜月　いみじくもあり

軒先に　小川流るる　延養亭
　　　つわの花びら　人目を引くも

蓮枯れて　花葉の池の　侘しさを
　　　ひとまず癒す　白き山茶花

小春日に　さえずる小鳥の　声聞けば
　　　寂しさ勝る　茂松庵かな

茅葺きに　落ち葉を敷きし　淋しさは
　　　住む人なくて　年寄るばかり

色染めし　楓は未だ　少なかり
　　　二色が岡の　名に拘れば

その昔　御舟の入りし　路の辺も
　　　竹薮となり　鳥の囀る

紅葉それ　やがて時知る　頃なるも
　　　茶祖堂閉じて　百才過ぎる

耳澄まし　小滝の音を　尋ねれば
　　　花交の池に　百石の島

山に立てば　見ゆる限りは　心しも
　　　水巡らせて　楽しめる園

曲水の　八つ橋きしむ　霜月に
　　　狂い咲きたる　杜若あり

千年の　時を越えにし　大賀蓮
　　　今眠れるは　蜻蛉の縄張り

雅なる　琴の音聞けば　福田茶屋
　　　黍の団子に　抹茶の美味し

戯れに　腰掛け茶屋に　休みしな
　　　池の鯉呼ぶ　柏手の音

被写体に　烏城を入れんと　心する
　　　写真家なれば　場所の拘り

岡山駅
　

そぞろ行く　川辺の林の　木漏れ日に
　　　まゆみはいまだ　赤く弾けず

旭川の　ほとりに建ちし　歌碑みれば
　　　宵待ち草の　いと懐かしき

ふたりして　語らいている　空間は
　　　華やぎを呼ぶ　夢二の出逢い

連れ立ちて　見物にきし　女衆
　　　声いろいろに　悩ましげなり

川沿いの　萩の葉枯れて　散り初める
　　　倉敷を訪う　旅の栞に

蔦絡む　アイビー館の　夕間暮れ
　　　時めきおりし　昔日想う

川面照らす　倉の屋敷の　街灯に
　　　影絵のひとつは　離れ難くに

川端の　夕闇に舞う　蝙蝠の
　　　淋しくもあり　数のひとつは

絵に魅入る　人波の中　そぞろ行く
　　　見覚えあるは　振り返りつつ

坂出は　霞みて見えず　その故に
　　　橋の行方の　いと長きこと

美林なすも　はや枯れかかる　松の枝に
　　　鷲羽の山は　ただならぬ染み

霞みつも　瀬戸の内海穏やかに
　　　松の山背に　鳶舞い鳴く

道の端に　茂みと群れるクジャクシダ
　　　鷲羽の山路の　思い出草に