頌春の京都小探訪

一片の　雲を払いて　初富士の
　　　晴れの姿を　車窓に望む

瑞雲の　御手に溶けゆく　白雲は
　　　清き流れの　富士川となる

茶畑に　緑陰残す　菊川の
　　　冬枯れ知らず　初春を迎う

故郷を　矢羽根のごとく　過ごせしも
　　　今日の泊りの　余香にとどむ

一見の　気位い高き　世話女房
　　　和服の似合う　京美人像

赤ら顔に　願いを込めし　柏手も
　　　消え入るほどの　賑わいの内

涸れ池に　苔一寸を　押し並べて
　　　夢窓国師の　蓬莱の庭

渡月橋は　嵯峨のむら風　受け止めて
　　　都鳥似る　鴎宙舞う

正月を　京に遊べば　渡月亭の
　　　湯豆腐の熱　腑にあり

老画家の　仕事始めは　仁和寺の
　　　五重塔や　松ヶ枝の中

石庭に　刻み込まれし　流線の
　　　造形なるも　自然に帰せる

石庭の　裏へ廻りて　侘びぬれば
　　　知足のつくばい　心に和む

親なくて　子の競い伸ぶ　台杉は
　　　庭一隅の　中天に活く

輝ける　そのあるままの　金閣や
　　　場所を選ばず　シャッターを押す

長らえて　親鸞慕う　大楠は
　　　天に気を吐き　大地を覆う

来迎の　雲の皐月に　降ればよし
　　　二十五菩薩の　庭の白雪

清水へ　登る坂道　休みなに
　　　萬珠堂の　八つ橋つまむ

苔結ぶ　馬酔木の山を　背に負うて
　　　砂山に叶う　銀沙の波紋

門前に　気を引く文字や　世続茶屋
　　　みたらしだんごに　甘茶一杯