初冬の洛北の里路

降り立てば　時雨れるばかり　京都駅
　　　やさしさに好く　アーケードの店

氷雨降る　高野川の　せせらぎに
　　　鴎は群れて　京の居心地

川端の　落ち葉の色の　華やぎは
　　　京の舞子の　紅の口元

大原女は　路の端に立つ　像なれや
　　　車社会に　姿は消えて

参道に　沿う細流に　散る紅葉
　　　積もりつもりて　なお美しく

参道に　行き交う人の　まばらにて
　　　店子の声も　遠慮がちなり

思い入る　旅の心の　静もりて
　　　ふたりし歩む　三千院の庭

見上げれば　時の刻みの　留まりて
　　　三千院の　老い杉の夢

水底に　落ち葉敷詰め　そのままに
　　　年の瀬を待つ　池のしがらみ

よく見れば　庭石の端に　屈まりて
　　　猩々袴の　ロゼットいくつ

苔庭に　もみじの落ち葉　輝けば
　　　風の馭者呼ぶ　狐の嫁入り

幾年を　重ね給いし　老い杉の
　　　根方に絡む　一つ葉の叢

小道には　落ち葉のあまた　散り敷けど
　　　後れ紅葉の　なお空を染む

柿の実の　木に鈴なりて　待ち焦がる
　　　軒に干さるる　昔日は来ず

昼過ぎて　鍋焼きうどんを　頬張れば
　　　湯葉の香りや　土地味自慢

荷車の　音偲ばるる　鳥の声
　　　懐かしいぞえ　塩鯖街道

老い悲し　犬に引かれて　幾度か
　　　車に惑う　横断のとき

眼下過ぐる　深山の肌の　冬景色
　　　ケーブルカーの　登坂のヒトコマ

手合わせば　四十八願　阿弥陀堂
　　　小雪の中に　朱に映えており

同い年の　生まれと聞けば　紅色の
　　　艶に魅せらる　堂若かりき

誰につく　鐘の音かは　知らねども
　　　響きに託して　煩悩消さん

衆生には　仏の一念　かく有りと
　　　伝教大師の　遺業説かるる

さもあらん　名に聞こえたる　延暦寺
　　　伝教大師　一隅照らすを　

一段と　低き処に　根張るらし
　　　根本中堂建つ　大杉の間に

賢治祈る　大師の御旨　深かりて
　　　明かりの一つ　有り難きこと

連れ添わん　三十幾つの　春秋は
　　　瞬とも言える　不滅の法灯

雪の舞う　比叡の御山の　底冷えに
　　　甘酒一杯　腑にしむ