房総逍遥　草木の所縁（１）

紫陽花の　匂いほのかに　日の暮れん
　　　馬来田の里の　妻と子と我

薊咲く　馬来田の里の　畦道は
　　　いまも昔の　恋路とどめて

ほおづきは　雨にうたれて　色付きぬ
　　　馬来田の家の　庭石の裾

早春の　野路を彩る　花ずおう
　　　名を問う人も　しばし佇む

畔にいざり　ふたり蓬を　摘みおれば
　　　昔馴染みの　野の匂いあり

畔を行く　児の小さき手に　土筆満つ
　　　ふるさと語る　宝となりてや

みてみてと　尖らす口は　空に向け
　　　子の吐く息に　たんぽぽの舞う

鳳仙花を　弾き飛ばして　遊ぶ子の
　　　声高らかに　野に響きおり

幾日か　そこにありせば　情もわき
　　　水注ぎやる　石の脇草

夏草の　茂れる野原　分け入れば
　　　風に紛れて　銀蝶の舞う

さわやかに　朝の野辺に　風通い
　　　金糸銀糸の　尾花琴弾く

ひよどりの　柿の梢の　戸惑いは
　　　秋の終わりを　告げるひととき

山茶花の　垣根に添いて　風巡り
　　　冬の誘いの　ささやきを聞く

羊歯群れる　築山巡れば　鶴髪の
　　　夕べに和む　石蕗の花

烏瓜を　両手に下げて　径行けば
　　　効能如何と　里人の問う

照り返す　アスファルト道に　待つ日傘
　　　夾竹桃の　木陰へ涼む

海岸の　岩場を好み　住みおれば
　　　海菜訛り　ワダンと呼ばる

涸沢を　下りてくれば　鶯の
　　　渡りに逢いて　光る汗拭く

山路ゆけば　野良着の乙女　みるごとく
　　　白き被りの　藤袴咲く

岩肌に　しがみて生きる　一群の
　　　十文字草の　末裔をみる

清澄の　すすきの根方を　定宿に
　　　南蛮煙管は　静かに休めり

何時か来た　牛久の今は　枯れ野原
　　　山椒魚の　冬眠の時

冬の海の　穏やかにして　白浜は
　　　ポピーの似合う　花の街道

小山背に　お花畑の　白渚
　　　声掛け合いし　老いと若きと

街道に　軒を連ねし　花売りの
　　　冬の奢りは　華かすみそう

温室を　そこここにみて　千倉路の
　　　アロエの花咲く　街をドライブ