房総逍遥　草木の所縁（２）

　

　

　

汐の香に　誘われるまま　尋ねきて
　　　浜昼顔に　まみゆ挨拶

南国の　誇りと言える　民宿は
　　　海の入り陽に　浜木綿の花

州　崎

　

　

成東の　湿原に生きる　イシモチ草
　　　ハルリンドウに　ミツバツチグリ

成東の　湿原美人は　花菖蒲
　　　風のため息　ちょうちょうの舞う

わたすげの　帽子なびけば　水無月の
　　　風に夫婦の　よしきりの鳴く

成東の　左千夫の歌碑を　訪なえば
　　　馬酔木の若葉に　目のこだわりぬ

成　東

　

　

海近き　遊歩道の　垣沿いに
　　　磯菊三つ四つ　慎ましくおり

浜風の　話し相手に　花揺れて
　　　浜えんどうの　おしゃべり続く

九十九里

　

　

春来れば　白き波涛の　帯解きて
　　　絞り染めにし　菜の花は黄

夏の陽を　さえぎりもせず　うち浴びて
　　　孤高に生きる　はまなすの花

犬吠崎

　

　

古も　今にありしや　境内の
　　　青葉若葉に　照る陽愛しき

おみくじの　事なきことば　選びつつ
　　　君恋がれんと　木の枝に結すばん

成田山

　

　

散りてなお　美しきかな　花桜
　　　雨の小道に　模様描きぬ

地に這いて　人目を避けし　草陰に
　　　鞍馬苔はなお　生き延びており

珍客は　一瞬馴染みの　目をみせて
　　　ベニシタンの　赤き実ついばむ

日暮れれば　銀杏並木の　界隈は
　　　都会雀の　ねぐら騒動

佐倉には　五ヶ所はありと　誇りしが
　　　南蛮煙管の　宿みな失せり

佐　倉

　

　

舗装せる　土手の外れの　寄留地に
　　　薄の穂波の　一叢の舞い

夕凪に　漂う菱の　浮き草に
　　　羽黒蜻蛉の　コーヒーブレーク

印幡沼

　

　

一輪草の　安らいでいる　楽園は
　　　杉の木立の　木漏れ日の中

双葉より　姿見せたる　かたくりに
　　　初恋の日の　はにかみ思う

老い松の　根方に座して　うかがえば
　　　ただ密やかに居り　二人静は

千葉・泉自然公園

　

　

鹿渡の　欅の古木に　立ち寄れば
　　　白きご飯の　盛り付けをみる

畑中に　雄々しき欅の　樹の下に
　　　手を合わせいる　老いの人影

踏み切りの　残土の岡は　土筆野の
　　　縮図となりて　雨のひた降る

四街道

　

　

味噌汁に　香りを添えし　蕗の薹
　　　春一番の　贈り物来る

庭石に　沿い咲き競う　玉簾
　　　浴衣の君の　立ち居を真似る

懸崖に　金蓮の花　咲き乱れ
　　　蜜蜂の寄る　常連の宿

風無くて　キウイの枯れ葉　落ちる音
　　　ひとつ待つ間の　時のためらい

冬の日の　淡き光に　ひたりつつ
　　　咲き初めにける　シクラメンの花

　

　

　

氷雨上がり　野村もみじの　あで衣
　　　密かに脱ぎて　地を覆いける

深々と　積もりし雪の　隙間より
　　　十両の実の　赤きがのぞく

コスモスの　花びらちぎり　占えば
　　　幸せだけを　風に飛ばせり

垣の端に　植えし記念の　花椿
　　　再び咲きて　ゆく年を識る

佇めば　恋路の跡や　小雨降る　
　　　江戸紫の　ねむの花房

　

　

　

故里に　佳きひとありて　つつがなく
　　　花の便りに　四季のときめき

　

　

　

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